麻痺性イレウスは、腸の動きが低下して、食べ物やガスを先へ送れなくなる状態です。治療の基本は、原因となる薬・炎症・電解質の異常などに対処し、医療者の管理下で飲食の調整、点滴、必要に応じた胃管などによる減圧を行うことです。腸の通り道が物理的にふさがる「腸閉塞症」とは治療が異なるため、まず検査で見分ける必要があります[1][2]。
まず確認したい、救急受診が必要なサイン
次のような症状があるときは、すぐに119番へ連絡してください[4]。
- 突然始まった激しい腹痛、または強い痛みが続いている
- 吐血、血便、黒い便が出た
- 急な強い息苦しさ、意識がもうろうとしている
激しい痛みがなくても、お腹の張りや嘔吐が続き、便もガスも止まっている場合は、放置せず速やかに医療機関へ相談してください。薬の影響による麻痺性イレウスでも、気づかずに原因薬を使い続けると重くなることがあります[2]。
便秘と自己判断して治療を追加する前に、診察を受けてください。イレウスでは飲食を制限する治療や、薬の見直しが必要になることがあります。飲水・食事・薬の扱いは医療者に確認し、症状が続くまま数日待たないようにしましょう[2]。
麻痺性イレウスとはどういう状態か
日本では長く「イレウス」と「腸閉塞」がほぼ同じ意味で使われてきましたが、現在は区別して考えられています。癒着、腫瘍、ねじれなどによって腸の通り道が物理的にふさがり、内容物が通れない状態を腸閉塞症(機械的閉塞)、詰まりはないのに腸の動きそのものが弱まる・止まってしまう状態をイレウスと呼び分けます[1]。麻痺性イレウスは後者にあたります。
この区別は言葉の問題ではありません。物理的に詰まっているのなら、その詰まりを解除する処置や手術が必要になることがあります。一方、麻痺性イレウスでは、腸の動きを低下させている原因への対処と、回復を支える治療が中心になります。どちらなのかで治療方針が変わるため、医療機関ではまずここを見極めます[1][2]。
主な症状
腸の動きが落ちると、腸の中に内容物やガスがたまります。そのため、お腹の張りが続く、便が出ない、腹痛、吐き気や嘔吐といった症状が現れます[2]。薬の影響で起きた場合も、こうした症状が持続することが知られています[2]。
ただし注意したいのは、症状やお腹の音だけでは診断が決まらないという点です。似た症状を示すものに、腸がねじれて血流が途絶える絞扼性の閉塞、腸の血流障害(虚血)、消化管に穴があく穿孔などがあり、これらは緊急性が高い状態です[2]。「腸の音が弱いから麻痺性イレウスだろう」と自己判断せず、医療機関で評価を受けることが大切です。
原因は一つではない
麻痺性イレウスは、単独の病気というより「腸が動かなくなった結果の状態」です。背景にはさまざまな原因があります。
薬剤の影響は重要な原因の一つです。オピオイド系の鎮痛薬や抗コリン作用をもつ薬は、腸の動きを抑える方向に働くことが知られています[2]。もし服用中の薬が関係している可能性を感じても、自分の判断で急に中止しないでください。中止や変更は医師の指示のもとで行う必要があります[2]。受診の際は、飲んでいる薬の名前・量・いつから飲み始めたかが分かるもの(お薬手帳など)を持参し、医師や薬剤師に伝えてください[2]。
お腹の中の炎症(腹膜炎や膵炎など)や、電解質の異常(血液中のミネラルのバランスの乱れ)も、腸の動きを低下させる要因になります[2]。また、手術後に腸の動きが戻りにくくなることもあり、術後の経過として説明されることがあります[2]。
原因が違えば、治療の中心になるものも変わります。ここが、後述する「薬が人によって違う」理由につながります。
病院でどう調べるか
診察では問診と腹部の診察に加えて、画像検査と血液検査が行われます。
CT検査は、物理的な閉塞やお腹の中の炎症を調べるために使います。腸の血流障害や血栓を評価する際には、造影剤を使うCTが役立ちます[2]。これは「麻痺性イレウスを証明する検査」というより、危険な状態を見逃さず、原因を探るための検査です。
血液検査は、脱水の程度や電解質の異常、背景にある原因を調べるために行われます。血液検査だけでイレウスと診断できるわけではありません[2]。
つまり、検査の目的は「機械的な閉塞や虚血・穿孔といった緊急手術が必要な状態を除外し、腸が動かなくなっている原因を特定すること」にあります。
治療の考え方
麻痺性イレウスの治療は、大きく次の柱で組み立てられます[2]。
原因への対処が基本です。薬剤が関係していれば医師の判断で薬の見直しを行い、炎症があればその治療を、電解質の異常があればその補正を行います。原因が残ったままでは腸の動きも戻りにくいためです。
経口摂取の調整も行われます。食事や飲水を控える、あるいは制限する判断は、腸の状態を見ながら医療チームが決めます[2]。患者さん側で「そろそろ食べても大丈夫だろう」と判断するものではありません。
輸液による水分・電解質の管理は、嘔吐や摂取制限による脱水と電解質の乱れに対応するために行われます[2]。
減圧処置が必要になることもあります。鼻から胃に細い管を入れてたまった内容物を吸引し、腸の中の圧を下げる方法などが状況に応じて選択されます[2]。
手術は、穿孔や膿瘍、その他外科的に治療すべき原因が見つかった場合に検討されます[2]。「何日間便が出なかったから自動的に手術」というものではありません。
薬は「誰にでも同じ」ではない
腸の動きを促す消化管運動改善薬を使う場合もあります。ただし、厚生労働省のマニュアルは、重篤な病態では腸に穴があく穿孔を誘発する可能性もあると注意を促しています。薬の名前だけで自分に適した治療かどうかは判断できません[2]。
薬を使うかどうかは、閉塞などとの区別、原因、全身状態を確認したうえで医師が判断します[2]。処方された薬について分からないことがあれば、主治医や薬剤師に確認してください。
抗コリン作用をもつ薬は腸の動きを抑える方向に働き、麻痺性イレウスの原因になり得ます。腸を動かすための治療薬として、自己判断で追加しないでください[2]。
大建中湯の研究について
大建中湯については、日本の3件のランダム化比較試験をまとめた研究があります。開腹によるがん手術後で、最初の食事開始前に排便がなかった患者さんに絞った解析では、術後の抜管から初回排便までの時間が短かったと報告されています[3]。
ただし、全体集団では統計的に有意な差がなく、部分集団を選んだ解析であること、手術や食事の進め方が研究間で異なることに注意が必要です。製造販売元による資金提供や著者の利益相反も開示されています。この研究だけから、どの原因のイレウスにも有効、入院期間が短くなる、予防できるとはいえません[3]。
飲食や薬の再開は、腸の状態を確認する医療チームの指示に従ってください[2]。
主治医に聞いておきたいこと
入院中やご家族の説明の場では、次のような点を確認しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
- 今回、腸が動かなくなった原因として何が考えられるか
- 物理的な閉塞(腸閉塞症)は除外されているか
- 飲水や食事はどのような条件で再開するか
- 今飲んでいる薬のうち、変更や中止をするものはあるか
- 退院後、どのような症状が出たら連絡すべきか
特に最後の項目は、退院後の不安を減らすうえで大切です。連絡先と目安の症状を、あらかじめ書き留めておくとよいでしょう。
当院での対応について
丸岡医院(山形県酒田市)は内科・消化器内科を標榜しています。お腹の張りが続く、便通が安定しない、服用中の薬と消化器症状の関係が気になる、といった落ち着いた状態でのご相談を承ります。消化器内科のご案内もあわせてご覧ください。
一方で、冒頭に挙げたような激しい腹痛、吐血・血便、強い息苦しさや意識の変化がある場合、また嘔吐が止まらず便もガスも出ない状態が続く場合は、当院での外来相談ではなく、救急要請または救急外来を優先してください。緊急性のある状態では、時間の経過が結果を左右します。
初診は予約不要です。直接ご来院いただくか、受診について迷う場合は電話(0234-23-8166)でお問い合わせください。受診方法のご案内もご確認いただけます。
参考文献
- 『急性腹症診療ガイドライン2025』第III章 BQ1–2.(日本超音波医学会掲載PDF) 文献を読む
- 厚生労働省『重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス』2021年4月改定. 文献を読む
- Kono T, et al. Daikenchuto accelerates the recovery from prolonged postoperative ileus after open abdominal surgery: a subgroup analysis of three randomized controlled trials. Surgery Today. 2019;49:704–711. 文献を読む
- 厚生労働省「上手な医療のかかり方」緊急性の高い症状(大人). 文献を読む




