突然の激しい腹痛、または激しい腹痛が続くとき、吐血や血便・黒い便があるとき、息苦しさや意識のもうろう・急に立てないといった症状があるときは、迷わず救急車(119番)を呼んでください[4]。これらは受診先を調べたり、翌日の外来を待ったりせずに救急対応が必要とされている症状です。
非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)は、腸への血流が足りなくなり腸が傷んでしまう状態のひとつです。ただし、NOMIのすべての方が激しい痛みを訴えるわけではなく、お腹のふくれ(膨満)や消化管出血が主なサインになることもあります[2]。だからこそ「痛みが強くないから大丈夫」とは言えず、気になる症状があるときは自己判断せず医療機関の評価を受けることが大切です。
「非閉塞性」とはどういう意味か
腸に血液を送る太い血管(腸間膜動脈)が、血栓などで詰まって血流が止まるタイプの腸間膜虚血もあります。一方でNOMIは、太い血管そのものは詰まっていないのに、腸への血流が足りない状態を指します。血管のけいれん(血管攣縮)や、全身の血液循環が落ち込むことが背景にあると考えられています[1]。
血流が足りない状態が続くと、腸の壁がダメージを受け、腸が壊れてしまう(壊死)危険があります。そのため、NOMIが疑われるときは重症度に応じて集中治療が可能で、血管内治療や手術にも対応できる体制の整った施設での対応が必要とされています[1]。
どんな人で起こりやすいのか
ガイドラインでは、NOMIが起こりやすい背景として次のような状況が挙げられています[1]。
- 心不全など、心臓のポンプ機能が落ちている状態
- ショックなど、全身の血圧・循環が保てない状態
- 重い脱水
- 透析を受けている方
- 手術の前後で心臓からの血液の送り出し(心拍出量)が落ちている状況
ただし、これらに当てはまる方が必ずNOMIになるわけではありません。逆に、こうした背景がある方は「お腹の症状が出たときに軽く考えない」という姿勢が役に立ちます。
また、意識のレベルが下がっている方や、集中治療室で鎮静を受けている方では、痛みの訴えがはっきり出ず、症状が隠れてしまうことがあります[1][2]。ご家族や周囲の方が、ふだんと違う様子(お腹のふくれ、反応の悪さ、血便など)に気づくことが重要になります。
症状だけでNOMIを見分けることはできない
「この痛み方ならNOMI」「この症状ならNOMIではない」という自己判断は成り立ちません。急性腸間膜虚血については、診察や血液検査だけでは除外できないとされています[2]。
とくに誤解されやすいのが乳酸(ラクテート)の値です。乳酸の上昇は腸間膜虚血に特異的なものではなく、値が正常だからといって安心できる根拠にはなりません[2]。血液検査は状態を評価する材料のひとつにすぎません。
腹痛のある方すべてがNOMIということでもありません。腹痛の原因は幅広く、病名を自分で決めるよりも、症状の強さや続き方、もともとの病気を医療者に伝えることが大切です。
どんな検査で調べるのか
NOMIが疑われる場合には、造影CT(CTA)や血管造影による評価が検討されます[1]。CTAでは血管の状態と腸そのものの状態の両方を評価できますが、太い血管が開いていることが確認できても、それだけでNOMIを否定できるわけではありません[2]。
単純CT(造影剤を使わないCT)で必ず診断がつくとは限りません。検査の選択は、全身の状態や腎機能、造影剤が使えるかどうかなどを含めて、その場の医療者が判断します。患者さんの側で検査内容を決める必要はなく、「危ない症状が出たら早く医療機関にたどり着く」ことが最優先です。
入院してからの治療の考え方
治療の柱は、まず腸の血流が足りなくなっている原因そのものを立て直すことです。循環の状態(心不全、脱水、ショックなど)を補正し、腸への血流を改善させることが基本になります[1][2]。
そのうえで、状況に応じて血管を広げる薬(血管拡張薬)の投与が検討されることがあります。カテーテルから局所的に投与する方法も、適応があれば選択肢になります[1][2]。
ただし、薬による治療で手術が必ず避けられるわけではありません。腸の壊死、腹膜炎や消化管の穿孔を示す所見、あるいは全身状態の悪化が続く場合には、手術が必要になります[1][2]。「〇〇時間薬で様子を見てから決める」といった固定の待機時間はありません。状態の変化に応じて、そのときどきで判断が行われます。
血管拡張薬だけで治療できるとは限らない理由
2024年に発表された日本の観察研究では、入院当日に手術を受けたNOMIの成人928例を調べ、術後の血管拡張薬の使用による院内死亡の減少は確認できませんでした[3]。ただし、手術を受けた患者さんに限った研究で、患者背景や薬の使い方の違いが残るため、「薬が無効」と証明した結果ではありません。
治療法は、薬の効果だけでなく、腸の壊死の有無と全身状態を合わせて判断します。薬があるから受診や手術を遅らせてよい、ということにはなりません。
退院後の受診で確認しておきたいこと
退院後の通院先や検査の間隔は、治療した病院の方針を確認してください。腸の手術後の経過や栄養管理について、引き続き病院での診療が必要な場合もあります。
状態が安定してからの普段の内科診療については、山形県酒田市の丸岡医院でもご相談いただけます。消化器内科の診療案内をご覧いただき、受診時には退院時の書類、お薬手帳、今後の通院方針が分かるものをお持ちください。
初診の内科受診は予約なしで直接お越しいただけます。受診についてのお問い合わせは 0234-23-8166 へ。受診の流れもご確認ください。
新たな腹痛や出血がある場合は、退院後の定期受診まで待たないでください。突然の強い腹痛や続く激しい腹痛、吐血・血便・黒い便、意識の異常などは119番の目安です[4]。症状が軽くても続き、心不全や透析などの背景がある場合は、速やかに医療機関へ相談してください。
よくある質問
NOMIと診断されたら、必ず手術になりますか?
必ずではありません。治療の基本は血流が落ちた原因の補正であり、状況に応じて血管拡張薬が併用されることもあります[1][2]。一方で、腸の壊死、腹膜炎や穿孔の所見、全身状態の悪化が続く場合には手術が必要になります[1][2]。どちらになるかは、検査所見とその後の変化を踏まえて医療者が判断します。あらかじめ「手術になる/ならない」を決めておくことはできません。
水分をしっかり摂ったり、食事を工夫すれば予防できますか?
食事や水分摂取だけでNOMIを確実に予防したり、起きている血流障害を治したりできるとは言えません。突然の激しい腹痛や出血などがあれば、自宅で対処しようとして受診を遅らせず、119番へ連絡してください[4]。
また、心不全や透析を受けている方は、ご自身の判断で水分量を増やしたり、処方されているお薬を減らしたりしないでください。これらの疾患では水分や薬の量が慎重に調整されており、自己判断の変更はかえって状態を崩す可能性があります。水分や食事、内服について気になることは、必ず担当の医療者に相談してください。
退院後は何を担当医に確認すればよいですか?
「もとの心臓・腎臓の病気をどこで診てもらうか」「食事や水分量に指示があるか」「次の通院先・時期」「どんな変化があれば予定を待たず受診するか」を退院時に確認しておくと役立ちます。全員に同じ通院間隔や回復までの期間が当てはまるわけではありません。
参考文献
- 日本循環器学会/日本血管外科学会. 2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(第8章 非閉塞性腸間膜虚血の項). 2022年(表紙更新2025年). 文献を読む
- Bala M, et al. Acute mesenteric ischemia: updated guidelines of the World Society of Emergency Surgery. World Journal of Emergency Surgery. 2022;17:54. 文献を読む
- Takiguchi T, Nakajima M, Ohbe H, et al. Association between Postoperative Adjuvant Vasodilator Therapy and In-Hospital Mortality for Non-Occlusive Mesenteric Ischemia: A Nationwide Observational Study. Journal of Nippon Medical School. 2024;91:316–321. 文献を読む
- 厚生労働省. 上手な医療のかかり方(緊急性の判断・大人の場合). 文献を読む




