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過敏性腸症候群(IBS)とは|繰り返す腹痛・便通の変化で受診を考える目安

過敏性腸症候群の受診準備を表す、症状メモ用のノートと鉛筆のイメージ

過敏性腸症候群(IBS)とは、腸に炎症や腫瘍などの明らかな異常が見つからないのに、腹痛や腹部の不快感と、下痢・便秘といった便通の変化が繰り返し続く状態を指します。症状が通勤や通学、食事、外出の妨げになることもあります。

腹痛や不快感と便通の乱れを繰り返し、生活に支障があるときは、かかりつけの内科・消化器内科に相談してください。症状が一定の期間続くまで受診を待つ必要はありません。また、血便・発熱・意図しない体重減少などがあれば、IBSかどうか以前に別の原因を調べる必要があります。この記事では、IBSの考え方、受診の目安、診察で聞かれること、検査の意味、受診前のメモの取り方を順に説明します。

IBSとはどんな状態か

IBSは、腸の動きや感じ方を調節している「脳と腸のやりとり」がうまくかみ合わなくなることで起こると考えられています。腸が刺激に敏感になったり、動きが速すぎたり遅すぎたりすることで、痛みや便通の変化が出るという整理です。日本消化器病学会の患者向けガイドでも、腸の知覚の過敏さと便通の変化という組み合わせで説明されています。

便通のパターンは人によって異なり、下痢が中心の人、便秘が中心の人、両方を行き来する人がいます。同じ人でも時期によって変わることがあります。ストレスや食事、睡眠不足などで症状が強まることがありますが、「気のせい」や「性格の問題」ではなく、消化器の機能的な不調として扱われる病態です。

なお、診断の考え方は国内外で少しずつ更新されています。国内には日本消化器病学会の診療ガイドライン(2020年)と2023年の患者向けガイドがあり、国際的には2026年6月にRome財団による「Rome V」という新しい枠組みが公開されました。Rome Vでは、痛みだけでなく「不快感」も診断の対象に含め、研究用と診療用の基準を分けています。ここでお伝えしたいのは、診断は「腹部の不快感や痛み」「便通の変化」「生活への影響」を診察の場で総合して判断するものであり、ネット上の症状チェックの回数や点数だけで決まるものではない、という点です。

別の原因を先に調べるべきサイン

IBSは症状の特徴から考え、必要な診察・検査で別の原因を評価して診断します。次のような症状があるときは、IBSと自己判断せず、早めに受診してください。

  • 便に血が混じる、黒い便が出る
  • 発熱が続く
  • 食事を減らしていないのに体重が減る
  • 大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病など)の家族歴がある
  • 血液検査などで貧血や炎症の数値の異常を指摘されている
  • 症状が中高年になってから急に始まった

日本消化器病学会の診療ガイドラインでも、こうした徴候や病歴、通常の検査の異常があれば、より詳しい検査へ進む判断が変わるとされています。突然の激しい腹痛、続く激痛、大量の血便、意識の異常などがある場合は、通常の外来を待たず119番へ連絡してください。厚生労働省の救急受診案内も参考になります。

診察で医師が聞くこと、検査が人によって違う理由

初診では、検査の前にまず問診が中心になります。米国NIDDKの診断解説でも、医師が確認する項目として、症状がいつから続いているか、排便と痛みの関係、便の形や回数の変化、服用中の薬、最近の感染症、家族の病歴などが挙げられています。これらは「IBSらしさ」と「他の病気の可能性」の両方を見分けるための質問です。

検査は全員に同じメニューがあるわけではありません。年齢、症状の内容、家族歴、上で挙げた注意サインの有無によって、血液検査、便の検査、腹部の画像検査、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)などから必要なものを選びます。ガイドラインでは大腸内視鏡は他の病気との区別に役立つとされていますが、すべての人に必ず行うものとは位置づけられていません。「どの検査が必要か」は、問診の内容によって医師が判断します。

「検査で異常なし」の意味と限界

検査で異常が見つからないことは安心材料ですが、それだけでIBSと確定するわけではありませんし、「何も問題がない」と言い切れるわけでもありません。ガイドラインも、大腸内視鏡が正常であること単独ではIBSの診断にはならないとしています。診断は、検査結果と症状の経過、生活への影響をあわせて考えるものです。

参考までに、米国で行われた大腸内視鏡に関する診断研究(Chey WD ら、2010年)では、IBSに似た症状で受診した人の一部に、内視鏡と組織検査によって別の原因が見つかっています。対象が米国の限られた集団であり、年齢層も日本の一般的な患者さんと同じとはいえないため、この結果から日本の患者さんの割合を推定することはできません。ただ、「症状だけで決めつけず、必要な人には検査で確かめる」という個別の判断が大切だという点は、この研究からも読み取れます。

治療の目標と限界

治療では、痛みや便通の乱れを軽くし、日常生活への支障を減らすことを目指します。NIDDKの治療解説や日本消化器病学会のガイドでも、治療は一人ひとりの症状のタイプに合わせて選ぶものとされており、睡眠や活動量、食事の見直しといった生活面の調整と、便通や痛みに対する薬の組み合わせが基本です。

治療の効き方には個人差があり、効果を確認しながら調整します。特定の食品をやみくもに抜いたり、自己判断でサプリメントを続けたりすることは勧められません。食事の調整が必要な場合も、何を試し、どのくらいの期間で見直すかを医師と相談しながら進めるのが安全です。また、治療中に新しく血便や発熱、体重減少などが出てきたときは、IBSとして経過を見るのではなく、改めて別の原因を調べ直すことになります。

受診前に書いておきたい症状メモ

覚えている範囲で、次の情報をメモしておくと診察で説明しやすくなります。記録が揃っていなくても受診できます。継続的な記録が必要かは診察で相談してください。

  • いつ頃から症状が始まったか(数週間か、数か月か、数年か)
  • 便の状態:下痢が多いか、便秘が多いか、両方か。形や回数の変化
  • 痛みや不快感と排便の関係:排便すると楽になるか、悪化するか
  • 食事との関係:食後に起きやすいか、特定の食品で強くなるか
  • 血便、発熱、体重減少の有無
  • 現在飲んでいる薬やサプリメント(市販薬を含む)
  • 最近の感染症(胃腸炎など)や、家族の消化器の病気
  • 実際に困っていること(通勤・通学中の不安、外出を避けている、仕事に集中できない など)

最後の「実際に困っていること」は、検査や治療の方針を決めるうえで医師にとって重要な情報です。遠慮せず伝えてください。

よくある質問

市販の整腸剤や下痢止めで様子を見てもよいですか

原因がまだ分からない段階で、市販薬だけで症状を抑え続けることは避けましょう。薬の名前や使った期間、効き方を診察で伝えてください。血便や発熱などの注意サインがある場合は、薬で様子を見続けず受診してください。

検査で異常がなければ、もう通院しなくてよいですか

検査で異常がなくても症状が続き生活に支障があるなら、治療や生活調整の相談を続ける意味があります。また、経過中に新しい症状が出たときは、改めて相談してください。

ストレスが原因と言われましたが、本当に腸の病気なのですか

ストレスは症状を強める要因のひとつですが、IBSは腸の動きや感じ方の調節がうまくいかない、れっきとした消化器の機能的な病態です。「気の持ちよう」だけで片づける必要はありません。

酒田市・丸岡医院での相談について

丸岡医院では、内科・消化器内科の一般外来として、繰り返す腹痛や便通の変化についてご相談いただけます。診察内容や検査の考え方は消化器内科のご案内を、受付の流れは受診案内をご覧ください。ご不明な点は電話(0234-23-8166)または直接ご来院ください。必要な検査とその進め方は、診察のうえで相談します。

突然の激しい腹痛や大量の血便、意識の異常など緊急性の高い症状は、通常の外来を待たず119番へ連絡してください。

相談するときは、症状そのものに加えて「日常生活で何に困っているか」も伝えてください。メモを作ることが、受診を遅らせる理由にならないようにしましょう。

参考文献

  1. 日本消化器病学会.機能性消化管疾患診療ガイドライン2020—過敏性腸症候群(IBS)改訂第2版
  2. 日本消化器病学会.患者さんとご家族のための過敏性腸症候群(IBS)ガイド2023
  3. Rome Foundation.Rome V: A Global Framework for Disorders of Gut–Brain Interaction(2026年9月16日確認)
  4. Chey WD, et al.The yield of colonoscopy in patients with non-constipated irritable bowel syndrome.Am J Gastroenterol. 2010;105:859–865.DOI:10.1038/ajg.2010.55(抄録を参照)
  5. NIDDK.Diagnosis of Irritable Bowel Syndrome(2017年11月改訂)
  6. NIDDK.Treatment for Irritable Bowel Syndrome(2017年11月改訂)
  7. 厚生労働省.こんな時は迷わず119へ

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