健康診断で「脂肪肝」と書かれていても、それだけでは肝臓がどの段階にあるかは分かりません。腹部エコーが映しているのは主に「肝臓に脂肪がたまっているか」であり、AST・ALTは「肝細胞が傷んでいるか」を反映する数値です。経過との関連が示されている肝臓の「線維化(せんいか)」の程度も大切な評価項目です。脂肪の多さやALTの値だけから、その段階を直接読み取ることはできません。ALTが基準範囲内でも線維化がないとは言い切れないため、健診の結果用紙一式と生活の情報を持って、評価の方法を医療者に相談することが出発点になります。
健診で脂肪肝を指摘されたとき、脂肪と線維化は別に評価する理由
脂肪の蓄積(steatosis)と線維化(fibrosis)は別の所見
脂肪肝とは、肝細胞に中性脂肪が過剰にたまった状態を指します。これに対して線維化は、肝臓の傷害に伴ってコラーゲンなどの線維性の組織が蓄積する変化です。欧州の診療ガイドラインでは、脂肪の蓄積、炎症や肝細胞の傷害、線維化・肝臓の硬さは、それぞれ別の検査で別のものをみると整理されています(EASL-EASD-EASO 2024)。「脂肪が多い=線維化が進んでいる」とは限らず、逆に脂肪が目立たなくても線維化が進んでいる場合があるため、両者は分けて考える必要があります。
エコーの「軽度・高度」は線維化のステージではない
健診結果に「軽度の脂肪肝」「高度の脂肪肝」と書かれている場合、まずその言葉が何を評価したものなのかを確認しましょう。脂肪の程度として使われている表現なら、線維化のステージ(病理学的にF0〜F4などと表される段階)とは別の尺度です。エコーで「軽度」と書かれていても線維化がないという意味ではなく、「高度」と書かれていても肝硬変に近いという意味ではありません。脂肪の程度についての所見だけで線維化の段階を決めない、という点が大切です(EASL-EASD-EASO 2024)。
なぜ線維化を分けてみるのか
脂肪肝の研究では、線維化の程度が経過と関係することが示されています。多施設前向き観察研究では、組織学的な評価を含むNAFLD成人1,773人を中央値4年追跡し、線維化が進んだ群(F3・F4)は軽い群(F0〜F2)に比べて肝臓に関連する合併症や死亡が多いという関連が報告されました(Sanyal 2021)。ただしこれは研究に参加したNAFLD患者集団での観察であり、健診で脂肪肝を指摘された人がこうした経過をたどるという意味ではありません。「脂肪の有無だけでなく、線維化を別に評価する理由」を示す背景として理解してください。
AST・ALTなど血液検査の読み方
AST・ALTが示すこと、示さないこと
AST(GOT)・ALT(GPT)は肝細胞が傷つくと血液中に増える酵素で、肝臓への負担の目安になります。健診で脂肪肝が見つかるきっかけは、画像で偶然指摘される場合と、こうした肝機能値の異常から調べる場合が多いとされています(AASLD 2023)。
AST・ALTは肝細胞の傷害を考える手がかりですが、線維化の蓄積を直接測る数値ではありません。米国のガイダンスでも、線維化が進んでいてもAST・ALTが正常範囲のことがあり、これらの値だけで臨床的に重要な線維化を除外できないと明記されています(AASLD 2023)。数値が基準内であることだけで線維化を否定せず、基準を超えていることだけで進行した病期と決めないことが大切です。
血液由来スコアと肝硬度の検査
線維化のリスクを推し量るために、年齢とAST・ALT・血小板数などを組み合わせて算出するスコア(FIB-4など)が診療で使われます。欧州のガイドラインでは、まずこうした血液由来の指標でふるい分け、必要に応じて肝臓の硬さを測るエラストグラフィ(肝硬度測定)などを段階的に組み合わせて線維化リスクを評価する流れが示されています(EASL-EASD-EASO 2024)。
これらは医療者が病歴や併存する病気とあわせて判断するための道具です。スコアの値だけで「受診しなくてよい」「線維化が進んでいる」と決めることはできません。肝硬度の測定も、すべての人に必ず行うものではなく、医療者が必要と判断したときの追加評価の一つです。どの検査をどの順で行うかは、健診結果と経過をみたうえで相談することになります。
名称について:NAFLDからMASLDへ
過去の検査資料や論文では、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」という名称を見かけることがあります。日本消化器病学会と日本肝臓学会は、国際的な流れに合わせて「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」などの名称と分類を採用し、国内で用いる基準を公表しています(JSGE 2026)。MASLDの分類では、肥満・血糖・血圧・脂質などの代謝に関わる要因を確認します。脂肪肝のすべてがMASLDに分類されるわけではなく、飲酒量や他の原因もあわせて評価します。健診の結果用紙に「脂肪肝」とあるだけで、どの分類に当たるかを自分で決める必要はありません。
受診時に結果用紙と一緒に伝えたいこと
脂肪肝の評価では、検査値そのものと同じくらい、その人の背景情報が判断材料になります。初期評価では、代謝に関わる併存疾患、飲酒量、脂肪肝以外の肝疾患の原因を確認することが基本とされています(AASLD 2023)。飲酒については、現在の量だけでなく飲み方や過去の履歴を記録しておくことが勧められています(EASL-EASD-EASO 2024)。
受診時に持参・共有すると役立つものは次のとおりです。これらは自分で診断を確定するためのチェック項目ではなく、医療者に渡す情報です。
- 今回の健診結果と、手元にある過去数年分の健診結果(数値の変化が分かります)
- 腹部エコーやCTなど画像検査の結果文書(あれば)
- 現在と過去の飲酒量、飲む頻度やパターン、以前と変わった時期
- 服用中の薬、市販薬、サプリメントや健康食品
- 糖尿病・高血圧・脂質異常症などの既往や治療歴、家族の肝疾患歴
診察で聞いておくとよい質問の例も挙げておきます。
- 私の場合、脂肪の程度と線維化のリスクはそれぞれどう評価しますか
- 過去の結果と比べて、変化として注目すべき点はありますか
- 追加の検査が必要なら、それは何を調べるためのものですか
- 飲酒や薬で結果に影響しているものはありますか
よくある質問
ALTが正常なら脂肪肝は心配いりませんか
ALTが基準内であっても、炎症や線維化がないことの証明にはなりません。線維化が進んでいてもAST・ALTが基準内のことがあるためです(AASLD 2023)。かといって全員に進行があるわけでもないので、脂肪肝の指摘があれば、他の検査値や背景とあわせて評価方法を相談してください。
エコーで「軽度の脂肪肝」なら初期のステージということですか
脂肪のたまり方を表す「軽度」であれば、線維化のステージを意味するものではありません。線維化のリスクは、脂肪の程度とは別に、血液由来の指標や必要に応じた肝硬度測定などを組み合わせて評価します(EASL-EASD-EASO 2024)。「軽度」という言葉から段階を推測するより、結果を持って評価方法を相談することをおすすめします。
脂肪肝の「ステージ」は自分で調べられますか
インターネット上にはスコアの計算式やカットオフ値も出回っていますが、これらは医療者が病歴や併存疾患と組み合わせて用いるものです。単独の数値でステージを自己判定したり、受診の要否を決めたりする目的には向いていません。
酒田市で健診結果を相談したいとき
山形県酒田市の丸岡医院には内科・消化器内科があり、健診で脂肪肝や肝機能値を指摘された方の相談を受けています。健診の結果用紙と上記の情報をそろえて、消化器内科の外来案内をご確認のうえ、直接ご来院いただくか、電話 0234-23-8166 でご相談ください。健診結果の持参方法については健診結果の相談もご覧ください。
参考文献
- European Association for the Study of the Liver (EASL), European Association for the Study of Diabetes (EASD), European Association for the Study of Obesity (EASO). EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on the management of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease (MASLD). Obes Facts. 2024. doi: 10.1159/000539371. PMID: 38852583.(欧州の診療ガイドライン。参照箇所は成人の評価戦略、非侵襲的検査の推奨、飲酒歴の評価に関する節。日本の診療手順として引用したものではありません)
- Rinella ME, et al. AASLD Practice Guidance on the clinical assessment and management of nonalcoholic fatty liver disease. Hepatology. 2023. doi: 10.1097/HEP.0000000000000323. PMID: 36727674.(米国のガイダンス。NAFLD名称時代の文書で、初期評価と線維化の推定に関する節を参照)
- Sanyal AJ, et al. Prospective Study of Outcomes in Adults with Nonalcoholic Fatty Liver Disease. N Engl J Med. 2021. doi: 10.1056/NEJMoa2029349. PMID: 34670043.(多施設前向き観察研究。本記事では抄録および図の説明のみを確認し、本文の方法・表は未確認です。研究参加患者における関連の報告であり、健診受診者個人の予後を示すものではありません)
- 日本消化器病学会. 脂肪性肝疾患の診断基準に関して(2026年2月2日). 日本消化器病学会の公開告知(名称・分類の採用に関する公開告知のみを参照。MASLD診療ガイドライン2026改訂第3版の本文は会員専用のため参照していません)




